らず言い出《い》でしその時は、川島未亡人とお豊の間は去る六|月《げつ》における日清《にっしん》の間よりも危うく、彼出《いだ》すか、われ出《い》づるか、危機はいわゆる一髪にかかりしなりき。

     三の一

 枕《まくら》べ近き小鳥の声に呼びさまされて、武男は目を開きぬ。
 ベッドの上より手を伸ばして、窓かけ引き退《の》くれば、今向こう山を離れし朝日花やかに玻璃窓《はりそう》にさし込みつ。山は朝霧なお白けれど、秋の空はすでに蒼々《あおあお》と澄み渡りて、窓前一樹染むるがごとく紅《くれない》なる桜の梢《こずえ》をあざやかに襯《しん》し出《いだ》しぬ。梢に両三羽の小鳥あり、相語りつつ枝より枝におどれるが、ふと言い合わしたるように玻璃窓のうちをのぞき、半身をもたげたる武男と顔見合わし、驚きたって飛び去りし羽風《はかぜ》に、黄なる桜の一葉ばらりと散りぬ。
 われを呼びさませし朝《あした》の使いは彼なりけるよと、武男はほほえみつ、また枕につかんとして、痛める所あるがごとくいささか眉《まゆ》をひそめつ。すでにしてようやく身をベッドの上に安んじ、目を閉じぬ。
 朝《あした》静かにして、耳わずらわす
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