岩様――どうしていらッしゃいまして?」と姥《うば》はびっくりした様子にて少し小鼻にしわを寄せつ。
「おれがさっき電報かけて加勢に呼んだンだ」
「おほほほ、あんな言《こと》をおしゃるよ――ああそうで、へえ、明日《あす》はお帰り遊ばすンで。へえ、帰ると申しますと、ね、奥様、お夕飯《ゆう》のしたくもございますから、わたくしどもはお先に帰りますでございますよ」
「うん、それがいい、それがいい。千々岩君も来たから、どっさりごちそうするンだ。そのつもりで腹を減らして来るぞ。ははははは。なに、浪さんも帰る? まあいるがいいじゃないか。味方がなくなるから逃げるンだな。大丈夫さ、決していじめはしないよ。あはははは」
引きとめられて浪子は居残れば、幾は女中《おんな》と荷物になるべき毛布《ケット》蕨などとりおさめて帰り行きぬ。
あとに三人《みたり》はひとしきり蕨を採りて、それよりまだ日も高ければとて水沢《みさわ》の観音に詣《もう》で、さきに蕨を採りし所まで帰りてしばらく休み、そろそろ帰途に上りぬ。
夕日は物聞山《ものききやま》の肩より花やかにさして、道の左右の草原は萌黄《もえぎ》の色燃えんとする
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