旦那の負傷《けが》はいかがでした? 実はわたしもあの時お負傷《けが》の事を聞いたンで、ちょいとお見舞に行かなけりゃならんならんと思ってたンだが、思ったばかりで、――ちょうど第一師団が近々《ちかぢか》にでかけるというンで、滅法忙しかったもンですから、ついその何で、お見舞状だけあげて置いたンでしたが。――ああそうでしたか、別に骨にも障《さわ》らなかったですね、大腿部《だいたいぶ》――はあそうですか。とにかく若い者は結構ですな。お互いに年寄りはちょっと指さきに刺《とげ》が立っても、一週間や二週間はかかるが、旦那なんざお年が若いものだから――とにかく結構おめでたい事でした。御隠居も御安心ですね」
中腰に構えし田崎は時計を出《いだ》し見つ、座を立たんとするを、山木は引きとめ
「まあいいさ。幸いのついでで、少し御隠居に差し上げたいものもあるから。夜汽車になさい。夜汽車だとまだ大分《だいぶ》時間がある。ちょっと用を済まして、どこぞへ行って、一杯やりながら話すとしましょう。広島《ここ》の魚《さかな》は実にうまいですぜ」
口は肴《さかな》よりもなおうまかるべし。
二の二
秋の夕日|
前へ
次へ
全313ページ中219ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
徳冨 蘆花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング