左に転ずるとともに、わが艦隊は竜《りゅう》の尾をふるうごとくゆらゆらと左に動いて、彼我の陣形は丁字一変して八字となり、彼は横に張り、われは斜めにその右翼に向かいて、さながら一大コンパス形《けい》をなし、彼進み、われ進みて、相|距《さ》る六千メートルにいたりぬ。この時敵陣の中央に控えたる定遠艦首の砲台に白煙むらむらと渦まき起こり、三十サンチの両弾丸空中に鳴りをうってわが先鋒隊の左舷の海に落ちたり。黄海の水驚いて倒《さかしま》に立ちぬ。

     一の四

 黄海! 昨夜月を浮かべて白く、今日もさりげなく雲を※[#「※」は草冠に左に酉、右に隹その下にれっか、第3水準1−91−44、151−3]《ひた》し、島影を載せ、睡鴎《すいおう》の夢を浮かべて、悠々《ゆうゆう》として画《え》よりも静かなりし黄海は、今|修羅場《しゅらじょう》となりぬ。
 艦橋をおりて武男は右舷速射砲台に行けば、分隊長はまさに双眼鏡をあげて敵の方《かた》を望み、部下の砲員は兵曹《へいそう》以下おおむねジャケットを脱ぎすて、腰より上は臂《ひじ》ぎりのシャツをまといて潮風に黒める筋太の腕をあらわし、白木綿《しろもめん》もてし
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