っかと腹部を巻けるもあり。黙して号令を待ち構えつ。この時わが先鋒隊は敵の右翼を乱射しつつすでに敵前を過ぎ終わらんとし、わが本隊の第一に進める松島は全速力をもって敵に近づきつつあり。双眼鏡をとってかなたを望めば、敵の中央を堅めし定遠鎮遠はまっ先にぬきんでて、横陣やや鈍角をなし、距離ようやく縮まりて二艦の形状《かたち》は遠目にも次第にあざやかになり来たりぬ。卒然として往年かの二艦を横浜の埠頭《ふとう》に見しことを思い出《い》でたる武男は、倍の好奇心もて打ち見やりつ。依然当時の二艦なり。ただ、今は黒煙をはき、白波《はくは》をけり、砲門を開きて、咄々《とつとつ》来たってわれに迫らんとするさまの、さながら悪獣なんどの来たり向こうごとく、恐るるとにはあらで一種やみ難き嫌厭《けんえん》を憎悪《ぞうお》の胸中にみなぎり出《い》づるを覚えしなり。
たちまち海上はるかに一声の雷《らい》とどろき、物ありグーンと空中に鳴りをうって、松島の大檣《たいしょう》をかすめつつ、海に落ちて、二丈ばかり水をけ上げぬ。武男は後頂より脊髄《せきずい》を通じて言うべからざる冷気の走るを覚えしが、たちまち足を踏み固めぬ。他はい
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