国のため、遠く離れて出《い》でて行く」の離歌に腸《はらわた》を断ち、宣戦の大詔に腕を扼《とりしば》り、威海衛の砲撃に初めて火の洗礼を授けられ、心をおどろかし目を驚かすべき事は続々起こり来たりて、ほとんど彼をして考うるの暇《いとま》なからしめたり。多謝す、これがために武男はその心をのみ尽くさんとするあるものをば思わずして、わずかにわれを持したるなりき。この国家の大事に際しては、渺《びょう》たる滄海《そうかい》の一|粟《ぞく》、自家《われ》川島武男が一身の死活浮沈、なんぞ問うに足らんや。彼はかく自ら叱《しっ》し、かの痛をおおうてこの職分の道に従い、絶望の勇をあげて征戦の事に従えるなり。死を彼は真に塵《ちり》よりも軽く思えり。
されど事もなき艦橋の上の夜《よ》、韓海の夏暑くしてハンモックの夢結び難き夜《よ》は、ともすれば痛恨|潮《うしお》のごとくみなぎり来たりて、丈夫《ますらお》の胸裂けんとせしこと幾たびぞ。時はうつりぬ。今はかの当時、何を恥じ、何を憤《いか》り、何を悲しみ、何を恨むともわかち難き感情の、腸《はらわた》に沸《たぎ》りし時は過ぎて、一片の痛恨深く痼《こ》して、人知らずわが心を
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