時間を艦橋に立てるなり。
 彼は今艦橋の右端に達して、双眼鏡をあげつ、艦の四方を望みしが、見る所なきもののごとく、右手《めて》をおろして、左手《ゆんで》に欄干を握りて立ちぬ。前部砲台の方《かた》より士官|二人《ふたり》、低声《こごえ》に相語りつつ艦橋の下を過ぎしが、また陰の暗きに消えぬ。甲板の上|寂《せき》として、風冷ややかに、月はいよいよ冴《さ》えつ。艦首にうごめく番兵の影を見越して、海を望めば、ただ左舷《さげん》に淡き島山と、見えみ見えずみ月光のうちを行く先艦|秋津洲《あきつしま》をのみ隈《くま》にして、一艦のほか月に白《しら》める黄海の水あるのみ。またひとしきり煙に和して勢いよく立ち上る火花の行くえを目送《みおく》れば、大檣《たいしょう》の上高く星を散らせる秋の夜の空は湛《たた》えて、月に淡き銀河一道、微茫《びぼう》として白く海より海に流れ入る。
       *
 月は三たびかわりぬ。武男が席を蹴《け》って母に辞したりしより、月は三たび移りぬ。
 この三月の間《ま》に、彼が身生はいかに多様の境界《きょうがい》を経来たりしぞ。韓山の風雲に胸をおどらし、佐世保の湾頭には「今度この節
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