より実際○番分隊士の一拳を恐るるね。はははは何か子細があると思うが、赤襯衣《ガリバルジー》君、君は川島と親しくするから恐らく秘密を知っとるだろうね」
 と航海士はガリバルジーといわれし赤シャツ少尉の顔を見たり。
 おりから従卒《ボーイ》のうずたかく盛れる菓子皿持ち来たりて、士官次室《ガンルーム》の話はしばし腰斬《ようざん》となりぬ。

     一の二

 夜十時点検終わり、差し当たる職務なきは臥《ふ》し、余はそれぞれ方面の務めに就《つ》き、高声火光を禁じたれば、上《じょう》甲板も下《げ》甲板も寂《せき》としてさながら人なきようになりぬ。舵手《だしゅ》に令する航海長の声のほかには、ただ煙突の煙《けぶり》のふつふつとして白く月にみなぎり、螺旋《スクルー》の波をかき、大いなる心臓のうつがごとく小止《おや》みなき機関の響きの艦内に満てるのみ。
 月影白き前艦橋に、二個の人影《じんえい》あり。その一は艦橋の左端に凝立して動かず。一は靴音静かに、墨より黒き影をひきつつ、五歩にして止《とど》まり、十歩にして返る。
 こは川島武男なり。この艦《ふね》の○番分隊士として、当直の航海長とともに、副直の四
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