蝕《くら》うのみ。母はかの後二たび書を寄せ物を寄せてつつがなく帰り来たるの日を待つと言い送りぬ。武男もさすがに老いたる母の膝下《しっか》さびしかるべきを思いては、かの時の過言を謝して、その健康を祈る由書き送りぬ。されど解きても融《と》け難き一塊の恨みは深く深く胸底に残りて、彼が夜々ハンモックの上に、北洋艦隊の殲滅《せんめつ》とわが討死《うちじに》の夢に伴なうものは、雪白《せっぱく》の肩掛《ショール》をまとえる病めるある人の面影《おもかげ》なりき。
消息絶えて、月は三たび移りぬ。彼女なお生きてありや、なしや。生きてあらん。わが忘るる日なきがごとく、彼も思わざるの日はなからん。共に生き共に死なんと誓いしならずや。
武男はかく思いぬ。さらに最後に相見し時を思いぬ。五日の月松にかかりて、朧々《ろうろう》としたる逗子の夕べ、われを送りて門《かど》に立ち出《い》で、「早く帰ってちょうだい」と呼びし人はいずこぞ。思い入りてながむれば、白き肩掛《ショール》をまとえる姿の、今しも月光のうちより歩み出《い》で来たらん心地《ここち》すなり。
明日《あす》にもあれ、首尾よく敵の艦隊に会して、この身砲弾の
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