いたりしその武男は今帰り来たれるなり。加藤子爵夫人が急を報ぜしその書は途中に往《ゆ》き違いて、もとより母はそれと言い送らねば、知る由もなき武男は横須賀《よこすか》に着きて暇《いとま》を得《う》るやいな急ぎ帰り来たれるなり。
 今奥より出《い》で来たりし仲働きは、茶を入れおりし小間使いを手招き、
 「ねエ松ちゃん。旦那さまはちっともご存じないようじゃないか。奥様にお土産《みやげ》なんぞ持っていらッしたよ」
 「ほんとにしどいね。どこの世界に、旦那の留守に奥様を離縁しちまう母《おっか》さんがあるものかね。旦那様の身になっちゃア、腹も立つはずだわ。鬼|婆《ばば》め」
 「あれくらいいやな婆《ばば》っちゃありゃしない。けちけちの、わからずやの、人をしかり飛ばすがおやくめだからね、なんにもご存じなしのくせにさ。そのはずだよ、ねエ、昔は薩摩《さつま》でお芋《いも》を掘ってたンだもの。わたしゃもうこんな家《うち》にいるのが、しみじみいやになッちゃった」
 「でも旦那様も旦那様じゃないか。御自分の奥様が離縁されてしまうのもちょっとも知らんてえのは、あんまり七月のお槍《やり》じゃないかね」
 「だッて、
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