よ、帰ってからにしましょう」
忍びかねてほろほろ落つる涙を伯母は洋傘《かさ》に押し隠しつ。
九の二
運命の坑《あな》黙々として人を待つ。人は知らず識《し》らずその運命に歩む。すなわち知らずというとも、近づくに従うて一種冷ややかなる気《け》はいを感ずるは、たれもしかる事なり。
伯母の迎え、父に会うの喜びに、深く子細を問わずして帰京の途《みち》に上りし浪子は、車に上るよりしきりに胸打ち騒ぎつ。思えば思うほど腑《ふ》に落ちぬこと多く、ただ頭痛とのみ言い紛らしし伯母がようすのただならぬも深く蔵《かく》せる事のありげに思われて、問わんも汽車の内《うち》人の手前、それもなり難く、新橋に着くころはただこの暗き疑心のみ胸に立ち迷いて、久しぶりなる帰京の喜びもほとんど忘れぬ。
皆人のおりしあとより、浪子は看護婦にたすけられ伯母に従いてそぞろにプラットフォームを歩みつつ、改札口を過ぎける時、かなたに立ちて話しおれる陸軍士官の一人《ひとり》、ふっとこなたを顧みてあたかも浪子と目を見合わしつ。千々岩! 彼は浪子の頭《かしら》より爪先《つまさき》まで一瞥《ひとめ》に測りて、ことさらに目礼し
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