》倒しつ。「あっ、これは疎※[#「※」は「つつみがまえ」+「夕」、第3水準1−14−76、128−6]《そそう》を」と叫びつつ、あわてて引き起こし、しかる後二つ三つ四つ続けざまに主人に向かいて叮重《ていちょう》に辞儀をなしぬ。今の疎忽《そこつ》のわびも交れるなるべし。
「さあ、どうかおかけください。あなたが山木|君《さん》――お名は承知しちょったですが」
「はッ。これは初めまして……手前は山木|兵造《ひょうぞう》と申す不調法者で(句ごとに辞儀しつ、辞儀するごとに椅子はききときしりぬ、仰せのごとくと笑えるように)……どうか今後ともごひいきを……」
避け得られぬ閑話の両三句、朝鮮のうわさの三両句――しかる後中将は言《ことば》をあらためて、山木に来意を問いつ。
山木は口を開かんとしてまず片唾《かたず》をのみ、片唾をのみてまた片唾をのみ、三たび口を開かんとしてまた片唾をのみぬ。彼はつねに誇るその流滑自在なる舌の今日に限りてひたと渋るを怪しめるなり。
八の二
山木はわずかに口を開き、
「実は今日《こんにち》は川島家の御名代《ごみょうだい》でまかりいでましたので」
思い
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