したことだが、卿《おまえ》も知っとるが、武男さんの事だがの――」
 むなしき槽櫪《そうれき》の間に不平臥《ふてね》したる馬の春草の香《かんば》しきを聞けるごとく、お豊はふっと頭《かしら》をもたげて両耳を引っ立てつ。
 「卿《おまえ》が写真を引っかいたりしたもんだからとうとう浪子さんも祟《たた》られて――」
 「あんた!」お隅夫人は三たび眉《まゆ》をひそめつ。
 「これから本題に入るのだ。とにかく浪子さんが病気《あんばい》が悪い、というンで、まあ離縁になるのだ。いいや、まだ先方に談判はせん、浪子さんも知らんそうじゃが、とにかく近いうちにそうなりそうなのだ。ところでそっちの処置《かた》がついたら、そろそろ後釜《あとがま》の売りつけ――いやここだて、おれも母《おっか》さんも卿《おまえ》をな、まあお浪さんのあとに入れたいと思っているのだ。いや、そうすぐ――というわけにも行くまいから、まあ卿《おまえ》を小間使い、これさ、そうびっくりせんでもいいわ、まあ候補生のつもりで、行儀見習いという名義で、川島家《あしこ》に入り込ますのだ。――御隠居に頼んで、ないいかい、ここだて――」
 一息つきて、山木は妻
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