つつ、ちょこちょこ走りに幾|間《ま》か通りて、父の居間に入り行きたり。
 「おお、お豊か。待っていた。ここへ来な来な。さ母《おっか》さんに代わって酌でもしなさい。おっと乱暴な銚子《ちょうし》の置き方をするぜ。茶の湯生け花のけいこまでした令嬢にゃ似合わンぞ。そうだそうだそう山形《やまがた》に置くものだ」
 はや陶然と色づきし山木は、妻《さい》の留むるをさらに幾杯か重ねつつ「なあお隅《すみ》、お豊がこう化粧《おつくり》した所は随分|別嬪《べっぴん》だな。色は白し――姿《なり》はよし。内《うち》じゃそうもないが、外に出りゃちょいとお世辞もよし。惜しい事には母《おっか》さんに肖《に》て少し反歯《そっぱ》だが――」
 「あんた!」
 「目じりをもう三|分《ぶ》上げると女っぷりが上がるがな――」
 「あんた!」
 「こら、お豊何をふくれるのだ? ふくれると嬢《むすめ》っぷりが下がるぞ。何もそう不景気な顔をせんでもいい、なあお豊。卿《おまえ》がうれしがる話があるのだ。さあ話賃に一杯|注《つ》げ注げ」
 なみなみと注《つ》がせし猪口《ちょこ》を一息にあおりつつ、
 「なあお豊、今も母《おっか》さんと話
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