れるぞ。観音様が姑《しゅうと》だッて、ああじゃ愛想《あいそ》をつかすぜ」
 「それじゃてて、あんた、躾《しつけ》はわたしばかいじゃでけまへんがな。いつでもあんたは――」
 「おっとその言い訳が拙者大きらいでござるて。はははははは。論より証拠、おれが躾をして見せる。さ、お豊をここに呼びなさい」

     七の二

 「お嬢様、お奥でちょいといらッしゃいましッて」
 と小間使いの竹が襖《ふすま》を明けて呼ぶ声に、今しも夕化粧を終えてまだ鏡の前を立ち去り兼ねしお豊は、悠々《ゆうゆう》とふりかえり
 「あいよ。今行くよ。――ねエ竹や、ここンとこが」
 と鬢《びん》をかいなでつつ「ちっとそそけちゃいないこと?」
 「いいえ、ちっともそそけてはいませんよ。おほほほほ。お化粧《つくり》がよくできましたこと! ほほほほッ。ほれぼれいたしますよ」
 「いやだよ、お世辞なんぞいッてさ」言いながらまた鏡をのぞいてにこりと笑う。
 竹は口打ちおおいし袂《たもと》をとりて、片唾《かたず》を飲みつつ、
 「お嬢様、お待ち兼ねでございますよ」
 「いいよ、今行くよ」
 ようやく思い切りし体《てい》にて鏡の前を離れ
前へ 次へ
全313ページ中165ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
徳冨 蘆花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング