ってちょうだいな」
 という声のあとを慕うてむせび来るのみ。顧みれば片破月《かたわれづき》の影冷ややかに松にかかれり。

     七の一

 「お帰り」の前触れ勇ましく、先刻玄関先に二|人《にん》びきをおりし山木は、早湯に入りて、早咲きの花菖蒲《はなしょうぶ》の活《い》けられし床を後ろに、ふうわりとした座ぶとんにあぐらをかきて、さあこれからがようようこっちのからだになりしという風情《ふぜい》。欲には酌人《しゃくにん》がちと無意気《ぶいき》と思い貌《がお》に、しかし愉快らしく、妻《さい》のお隅《すみ》の顔じろりと見て、まず三四杯|傾《かたぶ》くるところに、婢《おんな》が持《も》て来し新聞の号外ランプの光にてらし見つ。
 「うう朝鮮か……東学党《とうがくとう》ますます猖獗《しょうけつ》……なに清国《しんこく》が出兵したと……。さあ大分《だいぶ》おもしろくなッて来たぞ。これで我邦《こっち》も出兵する――戦争《いくさ》になる――さあもうかるぜ。お隅、前祝いだ、卿《おまえ》も一つ飲め」
 「あんた、ほんまに戦争《いくさ》になりますやろか」
 「なるとも。愉快、愉快、実に愉快。――愉快といや、な
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