ら良人《おっと》のコートのボタンゆるめるをつけ直し、ブラシもて丁寧にはらいなどするうちに、終列車の時刻迫れば、今はやむなく立ち上がる武男の手にすがりて
「あなた、もういらッしゃるの?」
「すぐ帰ってくる。浪さんも注意して、よくなッていなさい」
互いにしっかと手を握りつ。玄関に出《い》づれば、姥《うば》のいくは靴《くつ》を直し、僕《ぼく》の茂平《もへい》は停車場《ステーション》まで送るとて手かばんを左手《ゆんで》に、月はあれど提燈《ちょうちん》ともして待ちたり。
「それじゃばあや、奥様を頼んだぞ。――浪さん、行って来るよ」
「早く帰ってちょうだいな」
うなずきて、武男は僕が照らせる提燈の光を踏みつつ門を出《い》でて十数歩、ふりかえり見れば、浪子は白き肩掛けを打ちきて、いくと門にたたずみ、ハンケチを打ちふりつつ「あなた、早く帰ってちょうだいな」
「すぐ帰って来る。――浪さん、夜気《やき》にうたれるといかん、早くはいンなさい!」
されど、二度三度ふりかえりし時は、白き姿の朦朧《もうろう》として見えたりしが、やがて路《みち》はめぐりてその姿も見えずなりぬ。ただ三たび
「早く帰
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