例《こと》は世間に幾らもあります。家風に合わンと離縁《じえん》する、子供がなかと離縁《じえん》する、悪い病気があっと離縁《じえん》する。これが世間の法、なあ武どん。何の不義理な事も不人情な事もないもんじゃ。全体《いったい》こんな病気のした時ゃの、嫁の実家《さと》から引き取ってええはずじゃ。先方《むこう》からいわンからこつちで言い出すが、何のわるか事恥ずかしか事があッもンか」
「母《おっか》さんは世間世間とおっしゃるが、何も世間が悪い事をするから自分も悪い事をしていいという法はありません。病気すると離別するなんか昔の事です。もしまたそれが今の世間の法なら、今の世間は打《ぶ》ちこわしていい、打《ぶ》ちこわさなけりゃならんです。母《おっか》さんはこっちの事ばっかりおっしゃるが、片岡の家《うち》だッてせっかく嫁にやった者が病気になったからッて戻されていい気持ちがしますか。浪だってどの顔さげて帰られますか。ひょっとこれがさかさまで、わたしが肺病で、浪の実家《さと》から肺病は険呑《けんのん》だからッて浪を取り戻したら、母《おっか》さんいい心地《こころもち》がしますか。同《おんな》じ事です」
「
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