んなに潔いものでしょう! そうそう、さっき蓮月《れんげつ》の歌にこんなのがありましたよ『うらやまし心のままにとく咲きて、すがすがしくも散るさくらかな』よく詠《よ》んでありますのねエ」
「なに? すがすがしくも散る? 僕――わしはそう思うがね、花でも何でも日本人はあまり散るのを賞翫《しょうがん》するが、それも潔白でいいが、過ぎるとよくないね。戦争《いくさ》でも早く討死《うちじに》する方が負けだよ。も少し剛情にさ、執拗《しつこく》さ、気ながな方を奨励したいと思うね。それでわが輩――わしはこんな歌を詠んだ。いいかね、皮切りだからどうせおかしいよ、しつこしと、笑っちゃいかん、しつこしと人はいえども八重桜盛りながきはうれしかりけり、はははは梨本《なしもと》跣足《はだし》だろう」
「まあおもしろいお歌でございますこと、ねエ奥様」
「はははは、ばあやの折り紙つきじゃ、こらいよいよ秀逸にきまったぞ」
話の途切れ目をまたひとしきり激しくなりまさる風雨の音、濤《なみ》の音の立ち添いて、家はさながら大海に浮かべる舟にも似たり。いくは鉄瓶《てつびん》の湯をかうるとて次に立ちぬ。浪子はさしはさみ居し体温
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