はさみたり。二人《ふたり》の間には、一脚の卓ありて、桃色のかさかけしランプはじじと燃えつつ、薄紅《うすくれない》の光を落とし、そのかたわらには白磁瓶《はくじへい》にさしはさみたる一枝の山桜、雪のごとく黙して語らず。今朝《けさ》別れ来し故山の春を夢むるなるべし。
風雨の声|屋《おく》をめぐりて騒がし。
武男は手紙を巻きおさめつ。「阿舅《おとうさん》もよほど心配しておいでなさる。どうせ明日《あす》はちょっと帰京《かえ》るから、赤坂へ回って来よう」
「明日いらッしゃるの? このお天気に!――でもお母《かあ》様もお待ちなすッていらッしゃいましょうねエ。わたくしも行きたいわ!」
「浪さんが!!![#「!!!」は一文字、95−13] とんでもない! それこそまっぴら御免こうむる。もうしばらくは流刑《しまながし》にあったつもりでいなさい。はははは」
「ほほほ、こんな流刑《しまながし》なら生涯でもようござんすわ――あなた、巻莨《たばこ》召し上がれな」
「ほしそうに見えるかい。まあよそう。そのかわり来る前の日と、帰った日は、二日|分《ぶり》のむのだからね。ははははは」
「ほほほ、それじゃご
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