んの心も切に、おりおり沈むわが気をふり起こしては、われより医師を促すまでに怠らず病を養えるなりき。
目と鼻の横須賀《よこすか》にあたかも在勤せる武男が、ひまをぬすみてしばしば往来するさえあるに、父の書、伯母、千鶴子の見舞たえ間なく、別荘には、去年の夏川島家を追われし以来絶えて久しきかの姥《うば》のいくが、その再会の縁由《よし》となれるがために病そのものの悲しむべきをも喜ばんずるまで浪子をなつかしめるありて、能《あと》うべくは以前《むかし》に倍する熱心もて伏侍《ふくじ》するあり。まめまめしき老僕が心を用いて事《つこ》うるあり。春寒きびしき都門を去りて、身を暖かき湘南《しょうなん》の空気に投じたる浪子は、日《ひび》に自然の人をいつくしめる温光を吸い、身をめぐる暖かき人の情けを吸いて、気も心もおのずからのびやかになりつ。地を転じてすでに二旬を経たれば、喀血やみ咳嗽《がいそう》やや減り、一週二回東京より来たり診する医師も、快しというまでにはいたらねど病の進まざるをかいありと喜びて、この上はげしき心神の刺激を避け、安静にして療養の功を続けなば、快復の望みありと許すにいたりぬ。
四の
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