り電《でん》ひらめき黒風《こくふう》吹き白雨《はくう》ほとばしる真中《まなか》に立てる浪子は、ただ身を賭《と》して早く風雨の重囲《ちょうい》を通り過ぎなんと思うのみ。それにしても第一撃のいかにすさまじかりしぞ。思い出《い》づる三月の二日、今日は常にまさりて快く覚ゆるままに、久しく打ちすてし生け花の慰み、姑《しゅうと》の部屋《へや》の花瓶《かへい》にささん料に、おりから帰りて居《い》たまいし良人《おっと》に願いて、においも深き紅梅の枝を折るとて、庭さき近く端居《はしい》して、あれこれとえらみ居しに、にわかに胸先《むなさき》苦しく頭《かしら》ふらふらとして、紅《くれない》の靄《もや》眼前《めさき》に渦まき、われ知らずあと叫びて、肺を絞りし鮮血の紅なるを吐けるその時! その時こそ「ああとうとう!」と思う同時に、いずくともなくはるかにわが墓の影をかいま見しが。
ああ死! 以前《むかし》世をつらしと見しころは、生何の楽しみぞ死何の哀惜《かなしみ》ぞと思いしおりもありけるが、今は人の生命《いのち》の愛《お》しければいとどわが命の惜しまれて千代までも生きたしと思う浪子。情けなしと思うほど、病に勝た
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