に心よきはにくしと思う人の血をすすって、その頬《ほお》の一|臠《れん》に舌鼓うつ時の感なるべし。復讎、復讎、ああいかにして復讎すべき、いかにしてうらみ重なる片岡川島両家をみじんに吹き飛ばすべき地雷火坑を発見し、なるべくおのれは危険なき距離より糸をひきて、憎しと思う輩《やから》の心|傷《やぶ》れ腸《はらわた》裂け骨|摧《くじ》け脳|塗《まみ》れ生きながら死ぬ光景をながめつつ、快く一杯を過ごさんか。こは一月以来|夜《よ》となく日となく千々岩の頭《かしら》を往来せる問題なりき。
梅花雪とこぼるる三月中旬、ある日千々岩は親しく往来せる旧同窓生の何某《なにがし》が第三師団より東京に転じ来たるを迎うるとて、新橋におもむきつ。待合室を出《い》づるとて、あたかも十五六の少女《おとめ》を連れし丈《たけ》高き婦人――貴婦人の婦人待合室より出で来たるにはたと行きあいたり。
「お珍しいじゃございませんか」
駒子《こまこ》を連れて、片岡子爵夫人|繁子《しげこ》はたたずめるなり。一瞬時、変われる千々岩の顔色は、先方の顔色をのぞいて、たちまち一変しつ。中将にこそ浪子にこそ恨みはあれ、少なくもこの人をば敵視する
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