ままならぬをひそかにかこてるおりおりは、かつてわが国風《こくふう》に適《あ》わずと思いし継母が得意の親子《しんし》別居論のあるいは真理にあらざるやを疑うこともありしが、これがためにかえって浪子は初心を破らじとひそかに心に帯《おび》せるなり。
 継母の下《もと》に十年《ととせ》を送り、今は姑のそばにやがて一年の経験を積める従姉《いとこ》の底意を、ことごとくはくみかねし千鶴子、三つに組みたる髪の端を白きリボンもて結わえつつ、浪子の顔さしのぞきて、声を低め、「このごろでも御機嫌《ごきげん》がわるくッて?」
 「でも、病気してからよくしてくださるのですよ。でもね、……武男《うち》にいろいろするのが、おかあさまのお気に入らないには困るわ! それで、いつでも此家《ここ》ではおかあさまが女皇陛下《クイーン》だからおれよりもたれよりもおかあさまを一番大事にするンだッて、しょっちゅう言って聞かされるのですわ……あ、もうこんな話はよしましょうね。おおいい気持ち、ありがとう。頭が軽くなったわ」
 言いつつ三つ組みにせし髪をなで試みつ。さすがに疲れを覚えつらん、浪子は目を閉じぬ。
 櫛《くし》をしまいて、紙に
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