しいい方だッたら逗子《ずし》にでも転地療養しなすったらッてね、昨夕《ゆうべ》も母《おっか》さんとそう話したのですよ」
「そう? 横須賀《よこすか》からもちょうどそう言って来てね……」
「兄さんから? そう? それじゃ早く転地するがいいわ」
「でももうそのうちよくなるでしょうから」
「だッて、このごろの感冒《かぜ》は本当に用心しないといけないわ」
おりから小間使いの紅茶を持ち来たりて千鶴子にすすめつ。
「兼《かね》や? 母《おっか》さんは? お客? そう、どなた? 国の方《かた》なの?――お千鶴さん、今日はゆっくりしていいのでしょう。兼や、お千鶴さんに何かごちそうしておあげな」
「ほほほほ、お百度参りするのだもの、ごちそうばかりしちゃたまらないわ。お待ちなさいよ」言いつつ服紗《ふくさ》包みの小重を取り出し「こちらの伯母さんはお萩《はぎ》がおすきだッたのね、少しだけども、――お客様ならあとにしましょう」
「まあ、ありがとう。本当に……ありがとうよ」
千鶴子はさらに紅蜜柑《べにみかん》を取り出しつつ「きれいでしょう。これはわたしのお土産《みやげ》よ。でもすっぱくていけないわ
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