い。しかし今までのよしみに一|言《ごん》いって置くが、人の耳目は早いものだ、君は目をつけられているぞ、軍人の体面に関するような事をしたもうな。君たちは金より貴《たっと》いものはないのだから、言ったってしかたはあるまいが、ちっとあ恥を知りたまえ。じゃもう会うまい。三千円はあらためて君にくれる」
厳然として言い放ちつつ武男は膝の前なる証書をとってずたずたに引き裂き棄《す》てつ。つと立ち上がって次の間に出《い》でし勢いに、さっきよりここに隠れて聞きおりしと覚しき女《むすめ》お豊を煽《あお》り倒しつ。「あれえ」という声をあとに足音荒く玄関の方《かた》に出《い》で去りたり。
あっけにとられし山木と千々岩と顔見あわしつ。「相変わらず坊っちゃまだね。しかし千々岩さん、絶交料三千円は随分いいもうけをしたぜ」
落ち散りたる証書の片々を見つめ、千々岩は黙然《もくねん》として唇《くちびる》をかみぬ。
三の一
二月《きさらぎ》初旬《はじめ》ふと引きこみし風邪《かぜ》の、ひとたびは※[#「※」はやまいだれ+差、第4水準2−81−66、80−11]《おこた》りしを、ある夜|姑《しゅうとめ》の
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