るる所なしと度胸を据えし千々岩は、再び態度を嘲罵《ちょうば》にかえつ。
 「絶交?――別に悲しくもないが――」
 武男の目は焔《ほのお》のごとくひらめきつ。
 「絶交はされてもかまわんが、金は出してもらうというのか。腰抜け漢《め》!」
 「何?」
 気色立《けしきだ》つ双方の勢いに酔《え》いもいくらかさめし山木はたまり兼ねて二人《ふたり》が間に分け入り「若旦那も、千々岩|君《さん》も、ま、ま、ま、静かに、静かに、それじゃ話も何もわからん、――これさ、お待ちなさい、ま、ま、ま、お待ちなさい」としきりにあなたを縫いこなたを繕う。
 押しとめられて、しばし黙然《もくねん》としたる武男は、じっと千々岩が面《おもて》を見つめ、
 「千々岩、もういうまい。わが輩も子供の時から君と兄弟《きょうだい》のように育って、実際才力の上からも年齢《とし》からも君を兄と思っていた。今後も互いに力になろう、わが輩も及ぶだけ君のために尽くそうと思っていた。実はこのごろまでもまさかと信じ切っていた。しかし全く君のために売られたのだ、わが輩を売るのは一個人の事だが、君はまだその上に――いやいうまい、三千円の費途は聞くま
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