る品々を腕もたわわにささげ来つ。
 「お客様の――」と座の中央《もなか》に差し出《いだ》して、罷《まか》りぬ。
 じろり一瞥《いちべつ》を台の上の物にくれて、やや満足の笑《え》みは未亡人の顔にあらわれたり。
 「これはいろいろ気の毒でごあんすの、ほほほほ」
 「いえ、どうつかまつりまして。ついほンの、その――いや、申しおくれましたが、武――若旦那様も大尉に御昇進遊ばして、御勲章や御賜金がございましたそうで、実は先日新聞で拝見いたしまして――おめでとうございました。で、ただ今はどちら――佐世保においででございましょうか」
 「武でごあんすか。武は昨日《きのう》帰って来申《きも》した」
 「へエ、昨日? 昨日お帰りで? へエ、それはそれは、それはよくこそ、お変わりもございませんで?」
 「相変わらず坊っちゃまで困いますよ。ほほほほ、今日《きょう》は朝から出て、まだ帰いません」
 「へエ、それは。まずお帰りで御安心でございます。いや御安心と申しますと、片岡様でも誠に早お気の毒でございました。たしかもう百か日もお過ぎなさいましたそうで――しかしあの御病気ばかりはどうもいたし方のないもので、御隠居様、さすがお目が届きましたね」
 川島夫人は顔ふくらしつ。
 「彼女《あい》の事じゃ、わたしも実に困いましたよ。銭はつかう、悴《せがれ》とけんかまでする、そのあげくにゃ鬼婆《おにばば》のごと言わるる、得のいかン※[#「※」は「おんなへん+息」、第4水準2−5−70、221−16]御《よめご》じゃってな、山木さん――。そいばかいか彼女《あい》が死んだと聞いたから、弔儀《くやみ》に田崎をやって、生花《はな》をなあ、やったと思いなさい。礼どころか――突っ返して来申《きも》した。失礼じゃごあはんか、なあ山木さん」
 浪子が死せしと聞きしその時は、未亡人もさすがによき心地《ここち》はせざりしが、そのたまたま贈りし生花の一も二もなく突き返されしにて、万《よろず》の感情はさらりと消えて、ただ苦味《にがみ》のみ残りしなり。
 「へエ、それは――それはまたあんまりな。――いや、御隠居様――」
 小間使いがささげ来たれる一|碗《わん》の茗《めい》になめらかなる唇をうるおし
 「昨年来は長々お世話に相成りましてございますが、娘――豊《とよ》も近々《ちかぢか》に嫁にやることにいたしまして――」
 「お豊どん
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