《をんな》甕を頭に乗せて来り汲む。或はこゝにて洗濯をなすあり。いづれも日に焼けて赤黒く、素足なり。或は襟に、或は手首に、或は髪に銀貨を聯《つら》ねかけて装飾《かざり》とするは珍らし。極めて稀には金貨をかざれるもあり。シリアを旅して往々《わう/\》穴のあきたる銀貨のツリを貰ふことあるは、此風習あるが為なり。
一睡してまた馬に上る。岩山を上り下りしてやゝ平《たひら》なる浅き谷を行く。午後の日|射《さ》して、馬上|頗《すこぶ》る退屈す。前を見ればジヤルルック君は土耳其《とるこ》帽の上に白手巾《しろはんけち》を被り、棒縞の白地(筒袖にして裾の二方を五寸ばかり開く)に五寸幅の猩々緋《しやう/″\ひ》の帯して栗毛を歩ませ、後を顧みれば馬士《まご》のイブラヒム君土耳其帽を横ちよにかぶり、真黒く焼けし顔を日に曝し、荷物の上に両足投げ出して、ほくほく歩ます。やがて二人はしきりに歌ひ出しぬ。云々《しか/″\》してヤーモ、ヤーモ、ヤーモーヤーモー、ヤーモ、ヤーモ何の事か一切|解《げ》す可からず。中なる馬上の客も、多くは知らね賛美歌の種をきらして、人に習はぬ「忍路高島《おしよろたかしま》」を歌ふ。
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