立ちたる高さ三百尺の一孤邱《いつこきう》、段々畠の上に些《ちと》の橄欖の樹あり、土小屋《つちごや》五六其|額《ひたひ》に巣くふ。馬上ながらに邱上《きうじやう》を一巡す。昔の名残には、ヘロデの建てし街の面影を見るべき花崗岩《みかげいし》の柱十数本、一丈五尺にして往々《わう/\》一石より成るもの、また山背《さんはい》の窪地に劇場の墟址《あと》あり。麦圃の畔《くろ》、橄欖の影に、断柱《だんちう》残礎《ざんそ》散在す。
村の附近に古寺《こじ》の墟《あと》あり、地下室にバプテスマのヨハネの墓、エリシヤの墓、オバデヤの墓など称するものあり。村人古銭など持ち来りてすゝむ。山上より西に地中海の寸碧《すんぺき》を見る。
旅の興
サマリヤの廃墟より山いくつか越えてシレーと云ふ山腹の村の近くにいたり、馬を繋ぎ、無花果の枝の下に潜り入りて、毛布《けつと》を地に敷き、少し早けれど携へたる牛乳、パン、ジヤム等にて昼食《ちうじき》し、午憩《ひるやすみ》す。杏多き所にて、ジヤルルック君|一風呂敷《ひとふろしき》買ひ来りしかど、余はエルサレムに、杏に中《あ》てられたれば食はず。ほとり近く泉あり。村の婦人
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