ぬ。やがて鉄道線路を横ぎる。此はダマスコよりカルメル山下のハイフア港へ通ふもの、ヱスドレロン平原を東西に横断す。
 馬は傾斜をのぼりて小ヘルモン山南のシユネムの跡に到る。旧約にモレの山とあるは此小ヘルモンなるべしと云ふ。高さはギルボアと伯仲《はくちゆう》の間なり。シユネムはギルボアのサウルに対してペリシテ人の陣せし所、双方の間は小銃の戦《いくさ》も出来可《でくべ》き程に近く思はる。此処はまた預言者エリシヤが敬虔なる婦人の歓待を受け、後其子を死より復活せしめしと伝ふる所。今は夥しく茂れる覇王樹《しやぼてん》に囲繞されし十戸足らずの寒村なり。此処に三人抱程の素晴しき無花果の大木三本あり。三頭の馬を其一本に繋ぎ、余等三人は他の一本の下に毛布を敷いて坐し、昼食《ちうじき》午眠《ひるね》して午《ご》の前後四時間を此無花果樹下に費しぬ。小指の頭程の青き果《み》ヒシと生《な》れるを、小鳥は上よりつゝき、何処《どこ》も変わらぬ村の子供等下よりタヽき落して食《くら》ふ。

    ナザレへ

 午後二時無花果樹下を出でて再び馬に上り、小ヘルモン山の麓を北へ越えてナザレを指《さ》す。小ヘルモンの北麓、麦の
前へ 次へ
全17ページ中15ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
徳冨 蘆花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング