も眩《くら》まんとする時、こゝに活ける水の泉あり、滾々《こん/\》として岩間より湧き出づ。
嬉しさは言《ことば》に尽し難し。水なるかな、水ありて緑あり、水は咽《のんど》を湿《うるほ》し、緑は眼を潤す。水ありて、人あり、獣あり、村をなす。水なるかな、ヨハネが生命《いのち》の川の水を夢み、熱砂に育ちしマホメツトの天国が四時《しゞ》清水流れ果樹実を結ぶ処なるも、宜《うべ》なるかな。自然の乳房に不尽の乳を満たせし者に永遠《とこしへ》に光栄《ほまれ》あれよ。
エニンの夕
ドタンより丘を越えてカバチエーに到る。パレスタイン第一の橄欖林《かんらんりん》あり。皆古木。何千株なるを知らず。橄欖の実は九月に熟す。生食《せいしよく》し、塩蔵し、オリーブ油を製し、また石鹸《しやぼん》の原料となる。
これより始終谷を下り、日没|椶櫚《しゆろ》生《お》ふるエニンに到り、独逸《どいつ》人のホテルに投ず。今日は終日サマリヤの山を行けるなり。行程わづかに七里余。
エニンは昔のエンガンニム、海抜約六百五十|呎《フイート》、人口二千|左右《さう》の小邑《せういふ》、サマリヤの山尽き下《しも》ガリラヤの平
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