つた様に一種異様の熱気がさす。眼が真暗になる。頭がくら/\する。勝手もとに荷を下ろした後は、失神した様に暫くは物も言はれぬ。
早速右の肩が瘤《こぶ》の様に腫《は》れ上がる。明くる日は左の肩を使ふ。左は勝手が悪いが、痛い右よりまだ優《まし》と、左を使ふ。直ぐ左の肩が腫れる。両肩の腫瘤《こぶ》で人間の駱駝が出来る。両方の肩に腫れられては、明日は何で担《かつ》がうやら。夢にも肩が痛む。また水汲みかと思ふと、夜の明くるが恨めしい。妻が見かねて小さな肩蒲団を作つてくれた。天秤棒の下にはさむで出かける。少しは楽だが、矢張苦しい。田園生活もこれではやりきれぬ。全体《ぜんたい》誰《だれ》に頼まれた訳でもなく、誰《たれ》誉《ほ》めてくれる訳でもなく、何を苦しんで斯様《こん》な事をするのか、と内々《ない/\》愚痴《ぐち》をこぼしつゝ、必要に迫られては渋面《じふめん》作《つく》つて朝々《あさ/\》通《かよ》ふ。度重なれば、漸次《しだい》に馴れて、肩の痛みも痛いながらに固まり、肩腰に多少力が出来、調子がとれてあまり水をこぼさぬ様にもなる。今日は八分だ、今日は九分だ、と成績の進むが一の楽になつた。
然《しか
前へ
次へ
全6ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
徳冨 蘆花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング