水汲み
徳冨盧花

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)井《いど》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、底本のページと行数)
(例)※[#「くちへん+云」、第3水準1−14−87、47−2]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ぼろ/\に
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 玉川に遠いのが第一の失望であつた。井《いど》の水が悪いのが差当《さしあた》つての苦痛であつた。
 井《いど》は勝手口から唯《たゞ》六歩《むあし》、ぼろ/\に腐つた麦藁屋根《むぎわらやね》が通路《かよひぢ》と井《いど》を覆《お》ふて居《を》る。上《うへ》窄《すぼま》りになつた桶の井筒《ゐづゝ》、鉄の車は少し欠けてよく綱がはずれ、釣瓶《つるべ》は一方しか無いので、釣瓶縄の一端を屋根の柱に結《ゆ》はへてある。汲み上げた水が恐ろしく泥臭いのも尤《もつとも》、錨《いかり》を下ろして見たら、渇水の折からでもあらうが、水深が一尺とはなかつた。
 移転の翌日、信者仲間の人達が来て井浚《いどさら》へをやつてくれた。鍋蓋《なべぶ
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