》の葉を搖《うご》かして居る。
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春光臺|腸《はらわた》斷《た》ちし若人を
  偲びて立てば秋の風吹く
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 余等は春光臺を下りて、一兵卒に問うて良平が親友小田中尉の女氣無しの官舍を訪ひ、暫らく良平を語つた。それから良平が陸軍大學の豫備試驗に及第しながら都合上後※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]はしにされたを憤《いきどほ》つて、硝子窓を打破つたと云ふ、最後に住むだ官舍の前を通つた。其は他の下級將校官舍の如く、板塀に圍はれた見すぼらしい板葺の家で、垣の内には柳が一本長々と枝を垂れて居た。失戀の彼が苦しまぎれに渦卷の如く無暗に歩き※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]つた練兵場は、曩日《なうじつ》の雨で諸處水溜りが出來て、紅と白の苜蓿《うまごやし》の花が其處此處に叢《むら》をなして咲いて居た。

    釧路

      (一)
 旭川に二夜《ふたよ》寢て、九月二十三日の朝|釧路《くしろ》へ向ふ。釧路の方へは全くの生路である。
 昨日石狩嶽に雪を見た。汽車の内も中々寒い。上川原野《かみかはげんや》を南方へ下つて行く。水田が黄ばむで居
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