熊の足跡
徳冨蘆花

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)平潟《ひらがた》へ。

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)奧州|淺蟲《あさむし》温泉

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号)
(例)※[#「革+堂」、第3水準1−93−80]々

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)氣をつけ/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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    勿來

 連日の風雨でとまつた東北線が開通したと聞いて、明治四十三年九月七日の朝、上野から海岸線の汽車に乘つた。三時過ぎ關本驛で下り、車で平潟《ひらがた》へ。
 平潟は名だたる漁場である。灣の南方を、町から當面の出島をかけて、蝦蛄《しやこ》の這ふ樣にずらり足杭を見せた棧橋が見ものだ。雨あがりの漁場、唯もう腥《なまぐさ》い、腥い。靜海亭《せいかいてい》に荷物を下ろすと、宿の下駄傘を借り、車で勿來關址《なこそのせきあと》見物に出かける。
 町はづれの隧道《とんねる》を、常陸《ひたち》から入つて磐城《いはき》に出
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