た。大波小波|※[#「革+堂」、第3水準1−93−80]々《だう/\》と打寄する淋しい濱街道を少し往つて、唯《と》有る茶店《さてん》で車を下りた。奈古曾《なこそ》の石碑の刷物、松や貝の化石、畫はがきなど賣つて居る。車夫《くるまや》に鶴子を負《おぶ》つてもらひ、余等は滑る足元に氣をつけ/\鐵道線路を踏切つて、山田の畔《くろ》を關跡の方へと上る。道も狹《せ》に散るの歌に因《ちな》むで、芳野櫻を澤山植ゑてある。若木ばかりだ。路、山に入つて、萩、女郎花《をみなへし》、地楡《われもかう》、桔梗《ききやう》、苅萱《かるかや》、今を盛りの滿山の秋を踏み分けて上る。車夫が折つてくれた色濃い桔梗の一枝を鶴子は握つて負られて行く。
 濱街道の茶店から十丁程上ると、關の址に來た。馬の脊の樣な狹い山の上のやゝ平凹《ひらくぼ》になつた鞍部《あんぶ》、八幡太郎弓かけの松、鞍かけの松、など云ふ老大な赤松黒松が十四五本、太平洋の風に吹かれて、翠《みどり》の梢に颯々の音を立てゝ居る。五六百年の物では無い。松の外に格別古い物はない。石碑は嘉永《かえい》のものである。茶屋がけがしてあるが、夏過ぎた今日、もとより遊人《いうじ
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