ヌ部落を遠目に見て、第七師團の練兵場を横ぎり、車を下りて春光臺《しゆんくわうだい》に上つた。春光臺は江戸川を除いた旭川の鴻《こう》の臺《だい》である。上川原野《かみかはげんや》を一目に見て、旭川の北方に連壘の如く蟠居《ばんきよ》して居る。丘上は一面水晶末の樣な輝々《きら/\》する白砂、そろそろ青葉の縁《ふち》を樺に染めかけた大きな※[#「木+解」、第3水準1−86−22]樹《かしはのき》の間を縫うて、幾條の路がうねつて居る。直ぐ眼下は第七師團である。黒《くろず》むだ大きな木造の建物、細長い建物、一尺の馬が走つたり、二寸の兵が歩いたり、赤い旗が立つたり、喇叭《らつぱ》が鳴つたりして居る。日露戰爭凱旋當時、此|丘上《をかのうへ》に盛大な師團招魂祭があつて、芝居、相撲、割れる樣な賑合《にぎはひ》の中に、前夜戀人の父から絶縁の一書を送られて血を吐く思の胸を抱いて師團の中尉|寄生木《やどりぎ》の篠原良平が見物に立まじつたも此春光臺であつた。
 余は見※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]はした。丘の上には余等の外に人影も無く、秋風がばさり/\※[#「木+解」、第3水準1−86−22]《かしは
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