ろぐ。麥稈帽《むぎわらばう》の書生三人、庇髮の女學生二人、隣室に遊びに來たが、次ぎの汽車で直ぐ歸つて往つた。石狩川の音が颯々《さあ/\》と響く。川向ふの山腹の停車場で、鎚音高く石を割つて居る。囂《がう》と云ふ響をこだまにかへして、稀に汽車が向山を通つて行く。寂しい。晝飯に川魚をと注文したら、石狩川を前に置いて、罐詰の筍《たけのこ》の卵とぢなど食はした。
飯後《はんご》神居古潭を見に出かける。少し上流の方には夫婦岩《めをといは》と云ふ此邊の名勝があると云ふ。其方へは行かず、先刻《さつき》渡つた吊橋の方へ行つて見る。橋の上手には、楢の大木が五六本川面へ差かゝつて居る。其蔭に小さな小屋がけして、杣《そま》が三人停車場改築工事の木材を挽《ひ》いて居る。橋の下手には、青石峨々たる岬角《かふかく》が、橋の袂から斜に川の方へ十五六間突出て居る。余は一人尖つた巖角《がんかく》を踏み、荊棘《けいきよく》を分け、岬の突端に往つた。岩間には其處此處水溜があり、紅葉した蔓草《つるくさ》が岩に搦むで居る。出鼻に立つて眺める。川向ふ一帶、直立三四百尺もあらうかと思はるゝ雜木山が、水際から屏風を立てた樣に聳えて居
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