手荷物を負はせ、急勾配の崖を川へ下りた。暗緑色の石狩川が汪々《わう/\》と流れて居る。兩岸から鐵線《はりがね》で吊つたあぶなげな假橋が川を跨げて居る。橋の口に立札がある。文言を讀めば、曰く、五人以上同時に渡る可からず。
恐《お》づ/\橋板を踏むと、足の底がふわりとして、一足毎に橋は左右に前後に上下に搖れる。飛騨山中、四國の祖谷《いや》山中などの藤蔓の橋の渡り心地がまさに斯樣《こんな》であらう。形ばかりの銕線《はりがね》の欄《てすり》はあるが、つかまつてゆる/\渡る氣にもなれぬ。下の流れを見ぬ樣にして一息に渡つた。橋の長さ二十四間。渡り終つて一息ついて居ると、炭俵を負うた若い女が山から下りて來たが、佇む余等に横目をくれて、飛ぶが如く彼吊橋を渡つて往つた。
山下道を川に沿うて溯《さかのぼ》ること四五丁餘、細い煙突から白い煙を立てゝ居る木羽葺《こつぱぶき》のきたない家に來た。神居古潭《かむゐこたん》の鑛泉宿である。取りあへず裏二階の無縁疊《へりなしだゝみ》の一室に導かれた。やがて碁をうつて居た旭川の客が歸つて往つたので、表二階の方に移つた。硫黄《いわう》の臭がする鑛泉に入つて、二階にくつ
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