したまふ。次に夫人令嬢を一括して目礼すれば、夫人は怪訝《けげん》の眼を瞠《みは》りて、ぢろりと睨みまふ。肝《きも》を冷《ひ》やしてそこそこに片寄り、群衆の中に立まじりて、玄関に入り来る人々を眺むるに、何れも/\先づ子爵夫人に会釈して然る後主人に会釈す。しくじつたり、吾は何気なく主人を先にしたるが、此処は夜会の場、例の男尊女卑は大禁物《だいきんもつ》、殊に青木子は済まなかつた、と思うても下司《げす》の智慧はあとで、後悔はさきに立たず。今宵《こよひ》の失策のし初《ぞ》めと、独|頭《あたま》かく/\猶も入り来る人々を眺め居たり。
流れ入る客はしばらくも止《とゞ》まらず。夫妻連れの洋人、赤套《レツドコート》の英国士官、丸髷《まるまげ》束髪《そくはつ》御同伴の燕尾服、勲章|眩《まば》ゆき陸海軍武官、商人顔あり、議員|面《づら》あり。都貌《みやこがほ》あり、田舎相《ゐなかがほ》あり、髯《ひげ》あり、無髯あり、場馴れしあり、まごつくあり、親しきは亭主夫婦と握手して、微笑してかはす両三言、さもなきは小生と同様|澄《すま》しかへつた一|点頭《てんとう》、内閣大臣、外国公使等身分高きは右なる特別室に、余
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