まふべく思はれて、のさばりかへりて居たまふは、子爵夫人エリサベツトの君。其の側に夫人の小くしたる様なるが、青木令嬢なるべし。吾が近眼にはよくも見えねど、何やらん白繻子《しろじゆす》に軟《やはらか》き白毛の縁《ふち》とりたる服装して、牙柄《がへい》の扇を持ち、頭の揺《うご》く毎にきら/\光るは白光《プラチナ》の飾櫛にや。此の三人を正面にして、少しさがりて左手《ゆんで》には一様に薄色《うすいろ》裾模様《すそもよう》の三枚がさね、繻珍《しゆちん》の丸帯、髪はお揃《そろひ》の丸髷《まるまげ》、絹足袋に麻裏《あさうら》と云ふいでたちの淑女四五人ずらりと立ち列ぶは外交官の夫人達。此方《こなた》に紅菊《くれなゐぎく》の徽章《きしよう》つけし愛嬌《あいけう》沢山の紳士達の忙しげなるは接待係の外交官なるべし。
斯《か》く眺め候ふほどに、先入の客は何れも亭主の大臣夫婦に会釈しはてゝのきたれば、今は小生の順番となりぬ。先《まづ》気《き》を丹田《たんでん》に落つけ、震《ふる》ふ足を踏しめ、づか/\と青木子の面前にすゝみ出でゝ怪しき目礼すれば、大臣は眼鏡の上よりぢろりと一|瞥《べつ》、むつとしたる顔付にて答礼
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