は左なる喫煙室婦人室にそれ/″\入り行く。
忽《たちま》ち青木外相夫婦及び令嬢が、ずうと玄関の入口まで出で行くを何事と眺むれば、閑院宮《かんゐんのみや》同妃殿下の来りたまへるなり。群衆はさつと道を開きぬ。外相は桃紅色《とうこうしよく》の洋服を召したまへる妃殿下を扶《たす》けて、先に立ち、宮殿下はエリサベツト夫人と相携《あひたづさ》へて、特別休憩室に入りたまひぬ。やがて有栖川宮《ありすがわのみや》同妃殿下、山階宮《やましなのみや》同妃殿下も来たまひぬ。新に入り来る客は漸く稀《まれ》になりて、集《つど》へる客は彼処に一団、此処に一|塊《くわい》、寄りて話し離れて歩む。彼処に大きな坊ちやまの如くにこ/\笑ひながら話すは、大山参謀総長なり。此処に眉《まゆ》を顰《ひそ》めて語るは児島惟謙《こじまゐけん》氏なり。顔も太く、腹も太く、肝《きも》太く、のそり/\と眼をあげて見廻すは大倉喜八郎氏なり。黄海の勇将は西比利亜《さいべりあ》の横断者と話し、議員の勇士は学界の俊秀と語る、何処を見ても名士の顔揃《かほぞろ》ひ、日本の機関を動かす脳髄は大抵此処に集まつて居ると思へば、彼処の話も聞いて見たく、此処の
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