を握りて、魚と云はず、鳥と云はず片端より截《き》りては載せ、截りては載せ、こゝを先途《せんど》とまづ貯《たくは》へたまひけるが、何れの武官にやそゝくさ此方へ来らるゝ拍子《ひやうし》に清人の手にせし皿を斜《なゝめ》めにし、鳥飛んで空にあり、魚|床《ゆか》に躍り、折角の赤筋入りたるズボンをあたらだいなしにして呆然《ばうぜん》としたまひし此方には、件《くだん》の清人《しんじん》惜《を》しき事しつと云ひ顔に遽《あわ》てゝ床の上《うへ》なるものを匙《さじ》もてすくひて皿に復《かへ》されたるなど、其の国の気風|性癖《せいへき》も見えて面白かりき。
 食堂を出でゝ、再び舞踏室に入る。夜は漸く深けて興いよ/\深し。ワルスの調《しらべ》面白く、吾も内々《ない/\》靴のかゝとを上げ下げして、今にも踊り出さうになりぬ。忽ち場内のわあつと騒ぎ立ちて、撞《どう》と音《おと》するを見れば、斯は如何に紅色《くれなゐ》の洋装婦人と踊り狂へる六尺ゆたかの洋人の其の鼻|尤《もつと》も鳶《とび》に似たるが、床の滑かなるに足踏み辷らして、大山の頽《くづ》るゝ如く倒れしなりけり。洋装婦人の顔は着たる衣の其れよりも紅《くれなゐ》
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