男を後にて聞けば、失敬な世に安伴《あんばん》と呼ばれて中々《なか/\》甘《あま》くない精悍《せいかん》機敏《きびん》の局長なりけり。
左る程に舞踏の五番済みて、立食の堂《だう》開かれたれば、衆賓《しゆうひん》吾も/\と急ぎ行く。吾もつゞいて入るに、こゝは此度新に建てし長方形の仮屋《かりや》にて二列にテーブルを据ゑ、菓子の塔《たふ》柿林檎の山、小豚の丸煮《まるに》、魚、鳥の丸煮など、かず/\の珍味を並べ、テーブルの向ふには給仕ありて、客の為に皿を渡し、物を盛る。吾は皿とナイフ、フオクを受取りておづ/\小豚を襲ひたれども、皮《かは》硬《かた》うして素人《しろうと》の手に刻まれねば、給仕を頼みて切りて貰ひ、片隅に割拠《かつきよ》し、食ひつゝ四方を見るに、丸髷《まるまげ》の夫人大口開いて焼鳥を召し、金縁《きんぶち》眼鏡の紳士林檎柿など山の如く盛りたる皿を小脇《こわき》にかゝへて「分捕々々《ぶんどり/\》」と駆けて来たまふなど、ポンチの材料も少からず。中にも面白きは清国人《しんこくじん》の何れの身分ある人物にや、緞子《どんす》の服の美々しきが、一|大皿《だいへい》を片手に、片手はナイフ、フオク
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