て、あとには杉か檜苗《ひのきなえ》を植えることに決し、雑木を切ったあとを望の者に開墾《かいこん》させ、一時豌豆や里芋を作らして置いたら、神社の林地なら早々《そうそう》木を植えろ、畑にすれば税を取るぞ、税を出さずに畑を作ると法律があると、其筋から脅《おど》されたので、村は遽《あわ》てゝ総出で其部分に檜苗を植えた。
 粕谷八幡はさして古《ふる》くもないので、大木と云う程の大木は無い。御神木と云うのは梢《うら》の枯《か》れた杉の木で、此は社《やしろ》の背《うしろ》で高処だけに諸方から目標《めじるし》になる。烏がよく其枯れた木末《こずえ》にとまる。
 宮から阪の石壇《いしだん》を下りて石鳥居を出た処に、また一本百年あまりの杉がある。此杉の下から横長い田圃《たんぼ》がよく見晴される。田圃を北から南へ田川が二つ流れて居る。一筋の里道が、八幡横から此大杉の下を通って、直ぐ北へ折れ、小さな方の田川に沿うて、五六十歩往って小さな石橋《いしばし》を渡り、東に折れて百歩余往ってまた大きな方の田川に架した欄干《らんかん》無しの石橋を渡り、やがて二つに分岐《ぶんき》して、直な方は人家の木立の間を村に隠《かく》れ
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