ある。東京で瓦斯を使う様《よう》になって、薪の需用が減った結果か、村の雑木山が大分|拓《ひら》かれて麦畑《むぎばたけ》になった。道側の並木の櫟《くぬぎ》楢《なら》なぞ伐られ掘られて、短冊形の荒畑《あらばた》が続々出来る。武蔵野の特色なる雑木山を無惨※[#二の字点、1−2−22]※[#二の字点、1−2−22]《むざむざ》拓かるゝのは、儂にとっては肉を削《そ》がるゝ思《おもい》だが、生活がさすわざだ、詮方《せんかた》は無い。筍が儲かるので、麦畑を潰して孟宗藪《もうそうやぶ》にしたり、養蚕《ようさん》の割が好いと云って桑畑が殖《ふ》えたり、大麦小麦より直接東京向きの甘藍白菜や園芸物に力を入れる様になったり、要するに曩時《むかし》の純農村は追々都会附属の菜園になりつゝある。京王電鉄が出来るので其等を気構え地価も騰貴した。儂が最初買うた地所は坪四十銭位であったが、此頃は壱円以上二円も其上もする様になった。地所買いも追々入り込む。儂自身東京から溢れ者の先鋒でありながら、滅多な東京者に入り込《こ》まれてはあまり嬉しい気もちもせぬ。洋服、白足袋の男なぞ工場の地所見に来たりするのを傍見《わきみ》する毎に
前へ 次へ
全684ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
徳冨 蘆花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング