魔力の下に致し得ぬを残念に思うた。相手かまわず問わず語《がた》りの勢込《いきおいこ》んでまくしかけ、「如何《いか》に兄が本《ほん》が読めるからって、村会議員《そんかいぎいん》だからって、信者だって、理《り》に二つは無いからね、わたしは云ってやりましたのサ」と口癖の様に云うた。人が話をすれば、「※[#「口+云」、第3水準1−14−87]《うん》、※[#「口+云」、第3水準1−14−87]《うん》、ふん、ふん」と鼻《はな》を鳴《な》らして聞いた。彼女の義兄も村に人望ある方ではなかったが、彼女も村では正札附の莫連者《ばくれんもの》で、堅い婦人達は相手にしなかった。村に武太《ぶた》さんと云う終始ニヤ/\笑って居る男がある。かみさんは藪睨《やぶにらみ》で、気が少し変である。ピイ/\声《ごえ》で言う事が、余程馴れた者でなければ聞きとれぬ。彼女は誰に向うても亡くした幼女の事ばかり云う。「子供ははァ背に負《おぶ》っとる事ですよ。背からおろしといたばかしで、女《むすめ》もなくなっただァ」と云いかけて、斜視《やぶ》の眼から涙をこぼして、さめ/″\泣き入るが癖である。また誰に向っても、「萩原《はぎわら》の武
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