にかゝって、明《あ》くる年の正月元日病院で死んだ。屠蘇《とそ》を祝うて居る席に死のたよりが届《とど》いた。叔父の彼は異な気もちになった。彼ははじめてかすかな Remorse を感じた。
 墓地は一方大川に面《めん》し、一方は其大川の分流に接して居た。甥は其分流近く葬《ほうむ》られた。甥が死んで二三年、小学校に通う様になった叔父は、ある夏の日ざかりに、二三の友達と其小川に泳いだ。自分の甥の墓があると誇り貌《が》に告げて、彼は友達を引張って、甥の墓に詣《まい》った。而して其小さな墓石の前に、真裸の友達とかわる/″\跪《ひざまず》いて、凋《しお》れた月見草の花を折って、墓前の砂に插《さ》した。
 彼は今月見草の花に幼き昔を夢の様に見て居る。
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     腫物

       一

 人声が賑《にぎ》やかなので、往って見ると、久《ひさ》さんの家は何時《いつ》の間にか解き崩《くず》されて、煤《すす》けた梁《はり》や虫喰《むしく》った柱、黒光りする大黒柱、屋根裏の煤竹《すすたけ》、それ/″\類《るい》を分って積まれてある。近所近在の人々が大勢寄ってたかって居る。件《くだん》の古家《
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