、直ぐ見物に出かける。
上方客《かみがたきゃく》、東京っ子、芸者、学生の団体、西洋人、生きた現代は歴史も懐古も詩も歌も蹂躙《じゅうりん》して、鹿も驚いた顔をして居る。其|雑沓《ざっとう》の中を縫《ぬ》うて、先ず春日祠《かすがし》に詣《もう》でた。田舎みやげの話し草に、若宮前で御神楽《おかぐら》をあげて、ねじり廊《ろう》の横手を通ると、種々の木の一になって育って居る木がある。寄木《やどりぎ》、と札を立てゝある。大阪あたりの娘らしいのが、「良平《りょうへい》さんよ」と云う。お新さんがお糸さんと顔見合わせて莞爾《にっこり》した。お新さんは窃《そっ》と其内の椿の葉を記念の為にちぎった。
嫩草山《わかくさやま》の麓の茶屋に来た頃は、秋の日が入りかけた。草履《ぞうり》をはいた娘子供が五六人、たら/\と滑《すべ》る様に山から下りて来た。
「如何《どう》だ、上って見ようか」
「え、上りましょう」
足の悪いお新さんと鶴子を茶店《ちゃみせ》に残して、余は靴《くつ》のまゝ、二人の女は貸草履に穿《は》き更《か》えて上りはじめた。
名を聞いてだに優にやさしい嫩草山は、見て美しく思うてなつかしい山である。
前へ
次へ
全684ページ中680ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
徳冨 蘆花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング